こげ茶色の重厚感のある扉の前。

私は鍵を手にしたは良いけど、その後どうしたものかと固まっている。

「やっぱり、勝手に入る勇気が出ない……」

合鍵を渡されたと言う事は遠慮なしに入ってい良いと言う事なんだろうけど、家主が不在中なのに、勝手に入る決心が付かない。

扉を背に、身体をもたれ掛ける。

チャリっと目の前にかざす鍵には、花の絵が描かれているキーホルダーがくっ付いていた。

どう見ても、課長が自分で買った物じゃない気がする。

となると……。

「元カノのかな……」

そう呟いて、勝手に傷付いた。

「やっぱりこれ、課長の事を好きになってるよね」

今日一日、火事の事を根掘り葉掘り聞かれたけど、このキーホルダーの事で頭がいっぱいでそれ所じゃなかった。

「課長、早く帰って来ないかなぁ」

さっきまでオフィスで一緒だったけど、会いたい。


【ピリリリリッ―――。ピリリリリ―――。】


キーホルダーを、これ、勝手に変えたらダメかなぁ、とカチャカチャ弄っていたら、突然電話が鳴った。

ディスプレイを見てみると、大家さんからだった。

「もしもし」

『あ、紗月ちゃん?大家の野口です。今時間いいかしら?』

「あ、はい。大丈夫です」

『急なんだけど、今からこっちに来れるかしら?』

「え……大丈夫ですけど、どうしたんですか?」

『今ね、消防の方たち立ち合いの元、入居者のみんなが荷物を運び出してるのよ。紗月ちゃんも取りに来た方が良いんじゃないかと思って』

「えっ!?行きます行きます!」

思いがけない大家さんの言葉に、私のテンションが上がる。

服とか化粧品とか、持って来たいと思っていたから。

「じゃあ、待ってるわね。みんなもまだ運び出してる最中だから急がなくていいわよ~」

「はい!分かりました!」

―――ピッ。

電話を切り、荷物を運べる嬉しさに、私は後先考えずにさっき乗って来たエレベーターにもう一度飛び乗った。