何を話すでもなく、ただ二人、並んで歩く。

私は人よりも歩くスピードが遅いんだけど、課長はその速度に合わせてくれている。

(優しいな……)

和矢はスタスタと自分のスピードで歩く人だったから、並んで歩くのに苦労した。

(いつも私は小走りで和矢に付いて行ってたっけ)

だから、この課長の優しさ、気遣いがとっても嬉しい。


課長は、恋人は作らないんだろうか?


いつかの千歳じゃないけど、仕事が出来てお金持ち。顔も良くてスタイルも良いし、何より優しい。傍から見れば申し分ない人だ。

今はちょっとアレだけど、普段の課長だったら引く手数多だろうに。

「腹、減らないか?」

「へ?」

再度考え込んでいた私は、課長に何か言われたような気がして聞き返した。

「え?なんですか?」

「ずっと俺を待っていてくれたって事は、夕飯まだなんだろう?腹減らないかと思って」

「え、ああ…そう言えば空いた様な……」

課長を待っている間にカフェオレは飲んだけど、それ以外は口にしていなかったから言われてみればお腹が空いて来た。

「良い時間だし、メシ食って行くか」

「あ、はい」

「よし。じゃあ、どこが良いかな。女性が喜ぶ様なお店をあんまり詳しくないんだけど、どこかあるか?」

「えっと……」

女子が喜ぶ様なお店?どうしよう、私も何も思いつかない。

行きつけが居酒屋の私に聞かれても、正直困る。