ー課長の様子がおかしいー
みんなが口々に言う位、課長は本当におかしかった。
仕事でのミスなんてあり得ない優秀な人なのに、簡単な入力ミスをしたり、打ち合わせの時間を間違えたり、急に物思いに耽る様に空を見上げたり、ため息の数が増えたり。
なんだか背中には哀愁まで漂って来ちゃって……。
原因を突き止めようとしてみても、『なんでもないんだ……』と言って口をつぐんでしまう。
気にしても、八方塞がりだった。
「彼女にでもフラれたのかな?」
コソコソと耳打ちして来たコイツは、短大から一緒で同期の『三嶋千歳』。
「課長、今彼女いないって言ってたよ?」
自然と私の声のトーンも、小さくなる。
「そうなの?んじゃ違うのか。……てか、アンタなんで知ってるの?」
なんか、変に期待の目を向けて来る。
……なんにもないってば。
「前に仕事が定時に終わらなかった時に、時間ばっかり気にしてたから『彼女と待ち合わせでもしてるんですか?』って聞いたら、『彼女なんていないよ』 って、言ってた」
「ふ~ん」
なーんだ、と言いながら、つまらなさそうにキーボードをカショカショと打っている。
……だから、何をそんなに期待していたのか知らないけど、なんにもないんだってば。