そう思って走り出そうとした瞬間、ポンッ!と後ろから肩を叩かれて私は飛び上がった。

「わぁっ!?」

「わっ!」

私の叫び声に重なる様に、もう一つ驚いた声。

聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこには課長の姿。

「課長!ビックリするじゃないですか!!」

ドキドキと早鐘の様に鳴る心臓を押さえながら、その原因を作った課長に文句を言った。

「中条こそ、そんな大きな声を出したらビックリするじゃないか」

「突然後ろから肩叩かれたら誰だってビックリしますよっ!!」

「何度も声を掛けたのに気付かなかったから肩を叩いたんだが」

「えっ……」

そうだったの?

自分の事でいっぱいいっぱいで全く気が付かなかった。

「それは……すみませんでした。ちょっと色々あって……」

「色々?」

「あ、いえ、こっちの話で……所で課長。ここに来るまでに誰かに会いませんでした?」

「え?いや。誰も居なかったぞ?」

「本当ですか?」

「ああ。あ、でも、何人かのサラリーマンとはすれ違ったかな?」

「そうですか……」

サラリーマン……。

(いや、私が聞いた音は、確実にハイヒールの足音だった)

まさか、サラリーマンがハイヒールを履いていたとは思えない。

「どうした?」

考え込んでいる私に訝しげな顔をする課長。

「あ、いえ、なんでもないんです」

慌てて手を振った。

「そうか?」

余計な心配を掛けたくないから、課長には黙っておこう。