あの日失った想い

「心配しないよ。それに、俺の父さんはもうこの世にいない。」




彼はその言葉を発しても、表情の一切崩さなかった。





なんてことを訊いたのだろう。私は本当に馬鹿だ。





「ごめんなさい。変なこと訊いちゃって…」





「別に、もう慣れた。それに、父さんは俺が産まれる前に死んでるから、顔を見たことないんだ」





珍しく彼は口を開く。と、同時に私は思うのだ。






彼は…郁麻は寂しくないのだろうか。




自分をこの世界に産んでくれた親の顔を見たことすらないなんて。




彼がどうかは分からないが、私は耐えられないと思う。