「郁ちゃんの忘れた過去に、あなたが入っているの」


「……」


私は何も答えられずに、彼女の話を訊いていた。


彼女が私に一歩近づけば、私は一歩下がってしまう。




「郁ちゃんはあなたのことを思い出しかけたのよ。あなたといるからおかしくなった。


あなたのことを思い出せば、

郁ちゃんは必ずお父さんのことを思い出すわ。


そしたら、あんな郁ちゃん見るのはごめんこうむるわ。



だから由佳里、あなたがこれから彼にしてあげられることはこれだけよ。


これ以上、郁ちゃんを誰の声も聴こえない、暗闇に落とさないで。


もう、郁ちゃんに近づかないで!」