あの日失った想い

「郁ちゃん、お疲れ様」


いつも通り、あたしが郁ちゃんにタオルとスポーツドリンクを渡した。


「さんきゅ」



昔の郁ちゃんは今ほど無口ではなかった。まぁ、平均よりはクールだったけど。


やっぱり、お父さんの死を境に感情を出さなくなったのね。



「郁ちゃんはバスケ上手だねー!」


「当たり前。でも、まだ父さんには全然及ばない」


彼は汗をタオルで拭いて、お茶を飲んだ後、すぐにコートに戻っていった。




彼のお父さんはプロのバスケの選手だったの。

たしか、日本代表だった気がする。




あたしも何度か郁ちゃんの付き添いで、彼のお父さんの試合を見に行ったことがある。



それは、もう、かっこいい以外に感想が出なかったぐらい。