その週の土曜日。


部活の午前練を終え帰宅すると、玄関に女物の靴が2つ並んでいた。


「ただいま〜」


「あ、あーくん帰って来た!あーくん久しぶり〜!お邪魔してまーす!」


よく通る声がリビングから玄関にまで響く。


千華の母親だ。


娘とは正反対の明るく元気な人で、ちょくちょく綾人の母とランチに出かけたりしているが、綾人が会うのは約1年ぶりである。


「うっす。お久しぶりです」


「お、お邪魔してます」


綾人がリビングを覗いて挨拶すると、千華がちょこんと頭をさげる。


「おう」


「綾人!千華ちゃん部屋にあげてあげな」


母の言葉にどきりとする。


帰ってきたばっかりだし、部屋も汚くはないが綺麗でもない。


「おばさんたちの会話はつまんないでしょ」


「いえいえ。あーくん疲れてるだろうし」


千華が微笑みながら遠慮する。


「何遠慮してるの!せっかくだしね、綾人?」


母の視線が刺さる。


まあ別に嫌なわけではない。


「ん。千華こいよ」


「えっ、いいの?」


「先上がってちょっと部屋片すから、ジュースと菓子持って上がってきて」


「わかった」