春のあなたへ

後ろから声をかけると肩をびくつかせて彼は振り向いた。
やっぱり目元が長い前髪で隠れていて表情はあまり分からない。

「有馬さん……」

しかしその声の様子から驚いているのは分かった。
驚きだけではない、そこからは不安も感じ取れた。

ということは昨日私と会ったということは認識しているということだ。

私はそっと距離を詰め彼の座っている横に腰を落とした。

「あ、汚れるよ?」

彼は慌てたけどそんなことは気にせず薄汚れたコンクリートにお尻を乗せた。
後でスカートをクリーニングに出せばいいし。

気にしていない私の様子を見て黙った彼。

「ご飯食べた?」

「えっと今食べてるとこ」

そう言う彼の後ろにはおにぎりが二つ。
サランラップに包まれているのでそれが手作りだと分かる。