慶応二年。 いよいよ噂になっていた長州征伐が実現しそうな事態になった頃、 「ごめん」 と屯所を訪ねてきた者があった。 「…山本どのではありませぬか」 すっかり失明状態で、会津屋敷の長屋で洋学の講師となっていた山本覚馬である。 付き添いには時栄がある。 「これはまた、何事でございますか」 「その声は…岸島どのか?」 「いかにも」 「ならば土方さんか近藤さんに取り次いでくれ」 山本の声は何やら必死さを帯びていた。