「ごめん、遅くなった。
楽が寄り道ばっかりするから。」
「えぇー?
桜悠くんがそこら辺にいるカラスに僕の持ってたお菓子あげちゃうからでしょー?」
「いや、なんか……カラスだけはなぜか愛着が湧くんだよね。」
「もー意味わかんないよー!!
来都くん、助けてー!!」
まだ約束した時間より10分も前だけどな。
それでも、こうして時間より早く集まるのは……きっとそれぞれの思いがあるから。
何年経っても消えることのない思いが。
「……うるせえ。分かったから行くぞ。」
そうして俺たちは、丘を登り始めた。
今日は……兄さんの命日だ。
愛する人を護って死んだ兄さんの。
だが、その愛する人が誰だったのか、俺は覚えていない。
兄さんにとっても……そして、俺にとっても大切な人だったはずなのに……。
ふと右手に視線を落とすけれど、その手にはもう何もない。
学生だったあの頃掴んでいたはずの何かは、いつの間にか消えてしまった。
丘のてっぺんにある……1つだけの墓。
街を見渡せるこの場所に兄さんの墓を立てたのは、ここなら俺たちを見やすいんじゃないかって楽が言ったからだ。
"誰かが言ってくれた気がしたんだー。
呉都さんはちゃんと見守っていてくれているからって。"
そう言った楽の言葉に、俺はまた思う。
そう言ってくれた人のことを、俺たちは思い出さなきゃいけないと。
「あれ、先客がいたみたいだね。」
桜悠の声に思考を引き戻してみれば、兄さんの墓に花がいけてあった。
ここは俺たちしか知らないはず……。
一体、誰が……。

