その時、何かがフラッシュバックした。
【…………、俺たちはず……とお前の……待ってるから。】
【今……僕たちは離れられる……ない……からね。】
【燐……、……樹……ん。
本当に…世話……なり……た。】
途切れ途切れの記憶。
それなのに……どうして……涙が出てくるんだろう……ッ
「由樹……?マジでどうした……っておいッ、何泣いてんだよ!?」
分からない……分からないんだよ……ッ。
でも……僕の心が忙しなく言うんだ。
"思い出して"って。
そんなこと、ずっと思っていたはずなのに……なぜ今日はこんなにも突き動かされたんだろう。
そして、その人物はマスターに会釈をすると、出ていってしまった。
「待って……ッ!!」
あの人を追いかけなきゃいけない。
あの人はきっと…………僕の記憶に失われた何かを持っている。
だけど、扉を開けた先には、もうその人はいなかった。
夜の喧騒に溶け込むように……まるで雪のように姿を消した。
「おい、由樹ッ!!」
「ねぇ、燐理。
僕たちは……なんで忘れてしまったんだろう……。」
後ろから追いかけてきた燐理に聞いても、答えは得られないのに。
だって燐理も同じなのだから。
「とっても大切だったはずなのに……。
それが、例え神様の試練だったとしても、僕は忘れてしまったことが悔しいよ……。」
瞼を閉じれば浮かんでくるのは……僕たちの前で、必死に何かを護ろうとするその子の姿。
でも……さっきの記憶で知ったことがあるならば。
僕は……僕たちは、その子を護りたかったんだと思う。
そしてきっと、僕たちの誓いも……そうだったんじゃないのかな……。
それはあの冬の日を迎える数時間前の出来事だった。
end

