(来都side)
「……ありがとう。」
"うん"とは答えなかった真琴は、階段を登って行ってしまった。
あいつの覚悟は理解しているつもりだった。
でも、いざその時になると、その覚悟の先にある未来を認めることは耐え難かった。
「行かせて、良かったの?」
「……あぁ。それがあいつの願いだからな。」
「なら、僕は何も、言わない。」
俺も男だ。
今は帝王を倒すことだけを考えよう。
「……1つ聞いてもいいか?
なぜ、お前は俺たちに皇帝を救うことを求めた?」
「僕には、この世界で頼れるのは、蘭丸さんしかいなかった。
今は、ああだけど、本当は優しい人。
だから、頼んだ。」
「……別に真琴じゃなくても良かったはずだ。
例えば俺たちでも、ましてやお前自身でも良かったはずだ。」
「ダメ。僕は、蘭丸さんに、逆らえない。
それに、これだけはあの人に頼まなきゃダメ、だった。」
真琴じゃなきゃいけなかった?
そういえば、こいつ……。
「話は、終わり。ジュラ、出ておいで。」
そういうと、突如帝王の影がゆらゆらと揺らめき、やがて黒蛇へと姿を変えた。
〈やっと僕の出番じゃん、キャハハ。〉
「ごめん、ね?」
〈……来都、蛇の能力に気をつけて。〉
「……そんな脅威的なのか?」
〈……少なくとも、僕とあいつは相性が悪い。〉
シヴァがこういうことを言うのは滅多にない。
それほどなのか、あの黒蛇。
「じゃあ、始めよう?」
その瞬間、目を疑う出来事が起こった。
「……消えた……?」
さっきまで俺の目の前にいたはずなのに、突如として姿を消した。
瞬きもせず、よそ見もしなかった。
ならば、なぜ……?
そこでさっきのシヴァの忠告を思い出した。
「……透明になる能力なのか……?」
〈……正確な能力は"半径3mにいる相手を5秒間見つめると、しばらくの間操ることが出来る"こと。
見えないから、僕の能力とは相性が悪いんだ。
そして、そのためにまず相手がしなければならないことは……。〉
「……その半径3mに入ること。
だから透明になったのか。」
なら……今、あいつは俺の近くに必ずいる。
どこだ……どこにいる?

