放課後になり、麗子は奈津美と一緒に部活に出る。

篠崎奈津美、陸上部の1年生。麗子の部活友達。
「麗子、今日も頑張ろうね」
「うん、奈津美張り切ってるね」
「えっ、私は麗子みたいに彼氏がいるわけじゃないから、走ることで気をまぎらしてるの」
「え、べつにあいつは、彼氏じゃないよ。幼馴染だから」
「嘘ばっか。この前なんか、道路で抱き合ってたじゃん!」
「えっ、なに?、見られてたの?」
「偶然ね、麗子とは反対側の道路にいたの。友達とね」
「あの時は、猛スピードで走って来たオートバイから守ってくれたの、私のこと」
「ヒュー、やっぱり恋人同士じゃん」

そんな話をしていると。主将から集合の合図がかかる。
「えー、今からグランド10周して一番タイムが早い人、上位5人は県大会出場権がもらえるので頑張って下さい」

陸上部の生徒は、どんなに辛くても走り続ける根性がある。負けず嫌いが多い。

よーい、ドン。ピストルの合図で皆んな一斉に走り出す。放課後の校庭は、いろんな運動部が協力しあって使っている。

なので、たまによその部活のボールが当たって怪我をしてしまうこともある。

校庭を5周程走ってる時、その事故は起きてしまった。麗子はタイムをだそうと速いスピードで走っていた。

男子テニス部のスマッシュしたボールが麗子の腰めがけて飛んで来た。

5周も走っていると、徐々に疲労がでてくる。
「危なーい!よけてー!」
と男子テニス部の生徒は大声で叫ぶが、麗子はよけきれずにボールに当たってしまう。

「きゃあ」
声をあげた時、ボールの勢いで転んでしまった。右膝を擦りむいてしまい、血が出ている。男子テニス部の2年生が駆け寄ってくる。

「君、大丈夫?ごめんな。僕達の打ったボールで君に怪我させてしまって」
「大丈夫です、立てますから」

麗子は立とうとするが、膝を怪我していて力が入らない。
「君無理しちゃだめだよ」
彼は麗子をお姫様抱っこする。

「ちょっと、降ろして下さい。恥ずかしいですから」
「降ろしたところで、君は歩けないでしょ?」
そのまま、保健室に連れて行ってくれた。

保健の先生に、手当てをしてもらう。
「ちょっとしみるけど、我慢してね」
「はい」

「腰はどうかな?」
「あの」
「じゃ、僕廊下で待ってるから」
「そうしてくれる?」

先生はテキパキと動いて、処置が終わる。
彼を呼んでくれる。
「君、大丈夫?ほんとごめんなさい」
「いえ、ここまで連れてきてもらってありがとうございます」
「僕は、テニス部2年、宇田野蓮って言います。君は?」
「陸上部1年、椿麗子です」

「椿麗子ちゃんか、綺麗な名前だね」
「ありがとうございます。蓮ってカッコイイ名前ですね」
「ありがとう。気に入ってるんだ、この名前」


蓮は、自分の携帯の電話番号を書いて麗子に渡す。
「これ、僕の連絡先。なんかあったら連絡して」
「ありがとうございます」
「僕が連絡したい時の為に、麗子ちゃんのも教えて?」
「あ、はい」
麗子は、紙に携帯の番号を書いて蓮に渡す。

「ありがとう。ちょっと寝たほうがいいよ。僕そばにいるから」
「そんな、部活は?」
「また、明日頑張ればいいんだから」

麗子は目をつぶり夢の世界へと入っていく。
1時間程眠って、目が覚めたら隣に風太がいた。

「あっ、風太。来てくれたの?」
「来てくれたのじゃねーよ。心配かけやがって、バーカ」
「ごめん。でも、大丈夫だから」
「それならいいけど」
「風太?」
「ん?」
「キスして?」

「は?なに言ってんの、お前」
「早く治るためのおまじない」
麗子は目を閉じる。

「っ!しょうがねえな。ほら」
チュッ。麗子の唇に触れるだけのキスをした。

「ん、これで満足」
微笑む麗子。
「バーカ、こんなんで喜ぶなよ」
麗子の額を人差し指で押した。
「いいの」

そこへ、麗子の部活仲間の奈津美がお見舞いに来てくれた。
「麗子、入るよ」
「っ!奈津美!」
「麗子大丈夫?あんたほんとにドジなんだから」
「へへ」
「へへじゃないよ、これ荷物。この機会にゆっくり休みなよ。いつも頑張りすぎなの、麗子は」
「うん、ありがと」

「で、そこにいる彼氏に大事にされなね」
「うん、ありがと」

「俺は、彼氏じゃないよ。麗子の幼馴染だから」
「なーに言ってんのよ。麗子が好きだって顔に書いてあるよ」
「俺はべつに」
「じゃあ、これはなんなのかなあ?」
麗子のかけている布団をめくる。

風太は麗子の手をしっかり握っていた。
「こいつが寒いって言うから温めてただけだよ」
「そんな焦らなくてもいいじゃん、麗子のこと好きすぎるくせに!じゃあね。麗子も」
「うん、ありがと。奈津美」
奈津美は行ってしまった。


「あいつ、何しに来たんだろうな?」
「いいから、もう帰ろう」
「そうだな」
怪我している麗子を支えて、帰ろうとした時。枕の下に紙切れを見つけた。そこには、蓮の名前と携帯電話の番号が書かれていた。

風太は、とっさにそれをズボンのポケットへしまう。
「風太どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」

笑顔の麗子、その紙切れが気になって仕方ない風太。家に着くまで、沈黙が続いた。

「風太どうしたの?さっきから、黙りこくって」
「いや、べつに。お前に早くキスの雨を降らせてーなって考えてただけ」
「いやー!風太のエッチ!バカ」
「バカでもなんでもいいよ、早く麗子に触れたい」
「もう、知らない!」
言葉とは反対に、2人はぎゅっと手を繋いでいた。