「麗子、こんな所でなにやってんだよ。風邪ひいたらどうすんだよ。バーカ」
12月の寒い日。聖華高校の前で、麗子は幼馴染の風太を待っていた。

「風太と一緒に帰ろうと思って待ってたの」
「一緒に帰れるのは嬉しいけど、麗子が風邪ひかないか心配だよ」
「大丈夫、風邪ひいたら風太に移すから」
「僕はいいけど、麗子が辛くなるだろ。バーカ」

風太はテニスラケットのケースで麗子の頭を叩く。
「痛いなあ、もう」
「お前が勝手に待ってるのが悪い」
「なんでよ!いつも一緒にいたいから待ってたのに」
「僕達離れてた時少しでもあったかよ?」
「ううん、ない」
「だろ?だから寒い思いまでして待ってなくてもいいんだよ。ったく心配させんじゃねーよ」
「ごめんね」
「分かればいいんだよ」
麗子の手をぎゅっと握る。

麗子の手を握っているのは、安良城風太。聖華高校、男子テニス部1年、16歳。椿麗子とは小学校からの幼馴染。

麗子も同じ高校に通う陸上部の1年、16歳。風太の口癖は、すぐ人のことをバーカと言う。でも、麗子はその言葉を気に入っていた。

それは、乱暴な言い方だけど、風太の優しさが感じられるから。
「よし、麗子!僕を心配させた罰にラーメンでも食おうぜ」
「えっ、なにそれ!普通罰ってそういうのじゃないでしょ?」
「いいんだよ、これが僕の罰なんだから」
「ふうーん、変なの」

「麗子はなに食うの?」
「うーん、そうだなあ。私はチャーシュー麺がいいな」
「そっか、僕は醤油ラーメン」
「なんか食べる前から美味しい匂いがする」
「そうじゃなくて、麗子の場合はよだれが出るんだろ?」
「ちょっとねー、風太!」

麗子はカバンで風太の頭を叩こうとする。
「そう怒るなよ。僕は麗子の笑顔が好きなんだから」
風太の意外な言葉に、急にドキドキした。

風太は麗子の顔を覗き込み。
「ん?お前、顔真っ赤だぞ?」
「えっ、風太がいきなり変なこと言うからだよ」
「ちげーよ。僕は麗子の笑顔が好きって言ったんだよ」
「私のこと、好き...なの?」
「さあな、どうだろうね」
「えー、やだー。そういう曖昧な返事」
「は?嫌なの?」

「じゃなくて、はっきり言わないから」
「麗子!」
「なに?」
「今は言わない」
「なにそれー!白黒はっきりさせてよ、男なら」
「だから、おあずけ。今言った、面白くないだろ?ムード全然ないし。言いたくないね」

「あー、逃げたなー!」
麗子は頬を膨らます。
「麗子の怒った顔も可愛いな」

風太は、携帯でふくれっ面の麗子を写真に撮った。
「あー、風太。抜け駆けずるーい」
「あはは、傑作。フグといい勝負だな」

「もう、風太酷いよ。さっきから」
カバンで風太のお尻を叩く。
「いてー。すげえ力だな」
「もう、知らない。風太は!」

ますます、頬を膨らます麗子。風太は麗子の頬にキスをした。
「これで機嫌直せよ、な?」
麗子の顔を覗き込む。
「許してあげる」
耳まで真っ赤になる麗子。

「おい、今度は猿かよ?」
「私、風太のこと好きなのに」
小さい声で言う。

「えっ、なんか言った?」
「べつに」
「教えろよ」
「内緒」
ちぇっと不満そうだけど、麗子の手を握っていた。

ラーメン屋に入る2人。
「いらっしゃい。彼氏?」
「違います」
「いや、そうですよ」

麗子は、胸の奥がきゅんとなった。