鬼が往く

もがき苦しむ椎名を意にも介さず、将臣は銀二の方を見る。

「沢渡…ちゅうたかのぅ…ウチのモンのせいで、お前にはエライ迷惑かけた。すまんかったな。この通り、このボケにはケジメ取らせたし、コイツは組を絶縁する。東京にももう手ぇ出さんちゅうて約束するさかい…ここらでこの喧嘩、手打ちにしたってくれるか?」

「…俺は構いません」

将臣の言葉に頷く銀二。

「しかし…」

将臣はニッと笑う。

「ウチの組員相手に、たった1人でここまでやるとはのぅ…流石は三代目鬼首會組長・鬼首 春樹(おにこべ はるき)の息子やで」

「!!!!!!?」

その発言に、椎名も、組員も、紗智さえも凍り付いた。

日本最大、関東を牛耳る広域指定暴力団組織・三代目鬼首會組長の息子?

「知らんかったんかオドレら…鬼首組長がまだ自分の組を立ち上げる遥か前…極道にさえなってない二十歳になるかならんかの頃に、その当時の女との間に出来た子ぉが、この沢渡や。今は母方の姓を名乗っとるんか…せやけど籍は入れとるのやろ?せやったら、ホンマの名前は鬼首 銀二(おにこべ ぎんじ)…やな」