木の実がリビングに入ろうとした時、ジャスティンが誰かと話している声が聞こえた。

木の実の勘は、とっさに聞くなと告げている。
その直感に、木の実の体は回れ右をした。

でも、それでも、木の実の耳に、ジャスティンの言葉ははっきりと聞こえた。


「確かに、金曜日の夜はそこに毎週行くけど、でも、たまには、行けない日だってあるんだよ。
今夜は、俺がいなくても大丈夫だろ?
そんな、ガキんちょみたいな事言うなよ。

また、電話するから、じゃあな」


木の実はジャスティンの会話が終わってしばらくは、廊下の隅で数分間、時間が経つのを待った。
電話の声なんか聞いてない、そういう風に思わせるために。

木の実は慌てた様子でリビングに入ると、ジャスティンは自分用の一人掛けのソファに座っていたが、木の実の気配に気づき立ち上がった。


「ナッツ、遅いよ」



「ごめんなさい…
部屋からの夜景を見てたら、あっという間に時間が過ぎちゃって…」


ジャスティンは、木の実の前に大きめのシャンパングラスを置いた。


「いつか、大切な時に飲もうって取っておいたんだ」


ジャスティンはそう言ってワインクーラーで冷やしておいたシャンパンのコルクを器用に開け、木の実のグラスに少なめに注いだ。
そして、自分のグラスにもしなやかに注ぐと、透明水の中にプツプツと炭酸が弾けるシャンパンを、木の実のグラスにカチンと合わせる。


「僕の家へようこそ」