「おら、夏津、巧。行くぞ」
あ……。
そのとき聞こえた、一本の声。
姿こそ見えなかったけれど、これってきっとあの人だ。
あのとき、こうして廊下の窓ごしに、一瞬だけ目が合った、あの漆黒の瞳。
「おっと!」
「ぶぶっ!!!」
よそ見しながら走っていたのが間違いだった。
突然あたしは誰かの硬いこの胸に、勢いよく顔をぶつけてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい。私違うとこ見てて……」
「いや、俺こそごめん。時計ばっか見て、ちゃんと前見てなかったから」
自分よりも二十センチくらい頭上から、澄んだ綺麗な声が返ってきた。
顔を上げるとそこには……。
なんということでしょう。
まるで王子様といわんばかりのイケメンが!!
