「遥?」



込み上げてきそうになる涙を
ぐっとこらえて



『大丈夫。一人で帰ります。』



なるべく明るい声で答える。



いつもは
タクシーが走り去るのを
見送っていたが
今日はドアが閉まる前に
私は駅に向かって
歩き出していた。



「おい、遥っ!!」



本城さんが
私の背中に向かって
私を呼んでいたけど
私は聞こえないふりをして
一度も振り向かずに
そのまま歩き続けた。



もし今日
あんな告白がなければ
私は素直に送ってもらって
いたかもしれない。



でも…



取って付けた様な優しさ。


そんなもの
私が望んでいるものじゃない。



そんな彼の優しさに
触れるのが嫌だった。



きっと
ますます寂しくなるから…。



しばらくすると
私の頬を何かが濡らした。



涙が頬をつたい地面に落ちる。



でも私は
それを拭う気力もなかった。



もう限界かも‥‥



そう思った瞬間
空から大粒の雨が落ちてきて
私と地面を濡らす。



周りの人達は雨を避ける為
慌てて走り出した。



私はそのまま歩き続ける。



雨の冷たさが心地良かった。



‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥