正直、今の学校はあまり好きでは無かった。
授業の進むスピードに追い付くのがやっとで成績も下がってきているし、友達も作れないまま2年になってしまった。
「はぁ・・・」
今日も何も変わらない、いつもの一日になるんだと思うと気が重くなった。
しばらくするとバス停にバスが停まったので、いつものように乗車券をスクールバッグから取り出し、機械にタッチし空いている席へ座った。このバスはセレ学の生徒の他に西鈴高校(セイリン)と言う高校の生徒も乗っていた。学生はこの2つの高校しか使っていなかった。

西鈴高校はこの町一番・・と言うかこの町で唯一のバカ校と称されている高校で、生徒のほとんどがヤンキーとか校内暴力が多いとか、
とにかく悪い評判しか聞いたことが無い。
そんな鈴高生が毎日同じバスに乗っているのだ・・・。
鈴高の生徒はほとんどが髪を染めていてピアスなどのアクセサリーもつけている見るからに派手な格好で登校している。
でも私は・・鈴高生達が羨ましかった・・・。
私も出来る事なら制服を自分好みにアレンジしたい。
そんな事を思うとまたため息が・・・。
「ハァー・・」
すると途中のバス停から一人のお年寄りの女性が乗ってきた。
でも何故かキョロキョロして席に座る様子が無かった。
どうしたんだろうと様子を見ていると、どうやら席が空いていないようだった。
(どうしよう・・早く席を譲らないと・・)
だけど・・・いつもあと一歩の勇気が出ない。
私はいつもそうだ・・何かに迷ったり悩んでいるうちにチャンスを逃してしまう・・・。

毎日同じなのは自分が変わろうとしないから。
自分でどうにかしようとすればいくらだって変えられるはず・・でも私は変えようとしない・・・。
父のせいにしてオシャレをしない言い訳にする。
それはだだ楽に生きようとしてるだけなんだ・・
父の言いなりなのもその方が楽だからで・・
この制服も、この髪も『変えたい』と思っても『変えよう』とは思わなかった・・・。

・・ただ今のままこの席を立たない方が何も起きなくて楽なのかも知れない。
今の自分の立場をわきまえて行動していれば何も怖い事は起きないし面倒な事も無い。
だけどその代わり自分を失う・・・。
『わたし』と言う個性がなくなる・・・ただの操り人形になるだけ・・。
でも私は本当にそれでいいのかな?このままセレノア学園に通う東条教授の娘と言う肩書で物分りの良い娘を演じ続けるのが本当に正しい生き方なのかな・・?
このまま父の操り人形になってしまった方が将来の不安も無く安心して暮らせる・・・。
でも・・・やっぱり・・そんなの・・・「いやだ」
小さくそうつぶやくと私は席を立ってお年寄りの傍に行った。
(自分を変えたい・・・)
そして一瞬戸惑ったがお年寄りの女性に声を掛けた。
「あ、あの・・」
「はい?」
「あの・・良かったら座って下さい。」
「あらあらごめんなさい・・気を遣わせてしまって・・・」
「いいえ、バスの中は危ないですから座られた方が・・」
「ありがとう」そう言うと女性はひなたが譲った席に座った。