桜の咲く頃になるとこの疎水沿いの洋館に親族が集まり法事を行う。それがここ十年ほどの恒例となっていた。館は水仙の曽祖父の持ち物だという。


惑、漂、流、巨、海
竜、魚、諸、鬼、難


木魚の音と僧侶の掠れたバリトンが海月(クラゲ)のように波間を漂う。
やがて焼香の煙がゆっくりと部屋を曇らせ、すべてのものが乳白色に染まっていった。

末席で眠気を催してきた頃、部屋の外から水仙を呼ぶ声があった。