桜が枝垂れる疎水沿いの坂道を、水仙は力いっぱい走り抜けた。

はやく、はやく。

春の午後は、花と虫達の楽園。
水仙が駆けると、彼らも後ろをついて行く。
萌黄、若草、花蘇芳。
色鮮やかなパレエドは、白灰を撒き散らしながら進む。


「水仙!待ちなさい、もう。」


母親の声が虚しく空に放たれた。
大好きな虫達も、今日は水仙の心を捕えることは出来ない。はやる気持ちを抑えきれず、少年は一路館を目指す。


きょうは一年に一度だけ。
待ちに待った、あの子に会える日だもの。