咲燐の家に行く道中、咲燐は凛音に聞いた。

「なあ、凛音。答えたくなかったら別にいいんだけどさ、何であそこにいたんだ?」

咲燐の1歩後ろを凛音は歩く。

「…喧嘩したの。僕は邪魔なんだって。本当…あの人が何を願って何を思ってるのかさっぱり分からない…」

凛音は歩きながら空を見上げる。

「…そっか」

咲燐はそれ以上聞かなかった。
咲燐の家に着く頃、青かった空も茜色に染まりきっていた。

咲燐が家の鍵を開けて、凛音を中に入れる。

「どうぞ、散らかってるけど…」

咲燐がそう言う割にはあまり散らかってはいなかった。

「…咲燐、冷蔵庫開けていい?」

凛音は咲燐の家に上がり、台所に立った。

「いいけど、どした?」

咲燐は凛音の後を追う。

「お世話になるから、お礼に家事をって思って…」

凛音は明るく少し高めの声で言った。
付け足すように、

「…お礼にはならないかな?」

自信なさげに呟く。
咲燐はいや…と軽く否定し、

「有難いから、めっちゃ嬉しい」

と、照れくさそうに言う。
凛音はしゃがみこみ、冷蔵庫を覗く。

「んー…これだと…」

凛音は冷蔵庫の中にあった食材を取り出し、手際よく無駄のない動きで料理を作っていく。

咲燐はリビングに戻り、掃除を始めた。
ゴミは分別しまとめる。

散らばっている本や積み重なってる本を本棚に片付けた。

袋にまとめたものを玄関に置き、リビングの片付けを終えた。

それと同時に、凛音もご飯を作り終わったようだった。

「咲燐、運ぶの手伝って」

凛音は台所から咲燐を呼ぶ。

「はーい、今行く」

咲燐は自室の掃除をやめてリビングに向かった。

「はい、これお願い」

凛音は咲燐にお皿を渡すと、

「え!?何これ…凄っ!!」

咲燐は物凄く驚いていた。
テーブルに取り皿や料理を並べて、凛音と咲燐は食べ始めた。

「凛音って何かやってた?」

咲燐は口の中に入れてたご飯を飲み込み、凛音に聞く。
凛音は水を1口飲んでから答えた。

「…家が料亭をやってて、手伝っているうちに上達?したの。最初は母様に教えてもらいながらやってたよ」

凛音の声が後に連れて小さくなっていく。

「…そのお母さんと喧嘩した…とか?」

咲燐が聞くと俯きながら凛音はうんと頷く。

沈黙が続き、凛音と咲燐はひとまずご飯を食べることにした。

2人は食器の片付けを終わらせ、リビングに戻る。

最初に口を開いたのは咲燐だった。

「何で喧嘩したの?」

咲燐が優しい口調で聞く。
凛音は食後のお茶を少し飲み話し始めた。

「僕が、自然的に料亭を継ぐと思っていたの。だけど…母様が男を連れてきて僕に言ったんだ。『料亭はこの人とやるから、凛音、早く自立してちょうだい』って…」

凛音は話しているうちに涙を流していた。
話を聞いた咲燐は、

「ねぇ、凛音。お母さんはさ、早く自分が子離れしないとって思っていたんじゃないかな?」

凛音の隣りに移動し、凛音の頭を撫でる。

「凛音の将来を思って、心配事を減らそうと思ってそうしたんじゃないかなって俺は思うなぁ…」

咲燐は落ち着いた様子で言い、凛音を落ち着かせる。

「お母さんときちんと話した?」

咲燐が凛音に聞くと、凛音は横に首を振った。

「じゃあ、話すところから始めなきゃ」

咲燐の言葉に凛音はコクンと頷いた。
咲燐は凛音の頭を2回ぽんぽんすると、立ってリビングから出る。

「ありがとう、咲燐」

凛音の声が咲燐に聞こえたかどうかは分からない。