春の日。晴れて私、茄子梓は中学生になった。
小学生の頃はスカートなんて履かなかったから、制服にはまだ慣れることができない。でも、制服は小さい頃からの憧れだったし、これからの中学校生活を思うと些細なことだった。

今日はクラブの紹介があり、この市内で特に多いといわれる数々のクラブを見た。野球部、バレー部、作法部、美術部、プラモ部……
メジャーなものからマニアックなものもあり、暇することはなかった。お尻は痛かったが。
一時間は超えるだろうクラブ紹介が終わり、私はハッとした。そして絶望した。一番入りたかったテニス部が存在しなかったのだ。
私は特に取り柄もなく、運動はできないし絵だって上手くない。ただ一つ、できる事がテニスなのだ。テニスなら母の影響で二歳から習っているから、部内で劣等生になるなんてことはないはず、と思っていたのだが、まさかテニス部がないとは。うかつだった。クラブ数が多いと噂の第一中学校ならテニス部なんて超メジャーな部活があって当然だと思っていた。
今日から3日間体験入部ができ、この3日間に部活を決めなければならないのだ。私はそうとう焦った。姉がいる美術部も考えたが、私の画力は美術室に入ることすらおこがましいくらい壊滅的なのだ。絶対に入れない。
どうしよう、と思いながらクラブ一覧を見ていると、一つ、望みがある部活を見つけた。
卓球部だ。卓球ならテニスと似てるから、なんとなくできるんじゃないか?二年生がたった1人というのも魅力的だ。
思い立ったが吉日、卓球部に入りたいと言っていた女子を誘い、体験入部に行くことにした。その女子は山田池望といい、「のんちー」というあだ名がある子だった。気さくな子で、快く了承してくれた。
しかし、そののんちーは
「ただ……」
と言いにくいことがあるかのように、ちらっと教室の隅にいる女の子を見ている。私は気になり、
「なに?どうしたの?」
あの子がどうかした、と女の子を指さしながら聞くと、のんちーは申し訳無さそうにゴメンね、と言った。
「実は、もうあの女の子……林原真理っていう子なんだけどね、その子と約束しちゃってるんだ。それでもよければ……。」
なんだ、そんなことか。のんちーは優しくて可愛くて、人気のある子だから先客がいてもおかしくないと思っていたのだ。それに仲間が増えるのは嬉しいことだし、全然オッケーだとのんちーに伝え、席に着いて先生を待った。
約束したとたんに放課後が楽しみになってきた。卓球部とはどんな所なのだろう、とか、先輩はどんな人だろうとかで、授業があまり入ってこなかった。