「お先、失礼しまーす…。」



ダルイ声で挨拶し、夜も更けた空の下へ出た。



駅までは、某官公庁の駐車場を横切ると近道になる。



4月に入ったとはいえ、日が落ちるとまだ寒い。



足早に通り過ぎようとする私を、呼び止める声が聞こえた。



「桜雛。」



こんなトコで、この名前を呼ばれるとは思いもしなかった。



「誰?」



省庁の窓からもれる明かりに映し出されたのは、澤弥だった。



「何か用なん?電車の時間、もうすぐなんやけど…。」



「ま、乗る電車3本くらい遅らせて、ちょっと付き合ってよ。」



小1時間、何に付き合えと?



澤弥が指差した方向には、満開の桜の木と…その根元にビニールシートが敷かれていた。