私は会社を定時に出ると、特急料金を払ってまでいつもより早い時間の電車に乗りこんだ。



通勤時間は約2時間。



乗換が無ければ居眠りしながら通うには良い感じではあるが、2回…いや下手すりゃ3回の乗換を強いられる身としては、もっと楽に通える支店で勤務したい…なんてボヤキたくなる。



誰だよ?



『駅までバスの代わりに自転車使えば、通勤時間短縮できるじゃないの?』



なんてコト、私に向かって言う奴は。



自転車乗れるものなら、とうの昔にそうしてるっつーの!



繁華街で通勤電車を途中下車した頃には、18時半近かった。



繁華街から少し歩き、雑居ビルの地下に入ったところに、私のお気に入りの店がある。



カウンター数席とテーブル席1つの、見た目はどう考えても喫茶店なカンジは否めない。



「いらっしゃい、連れ先に来とるぞ。」



マスターの威勢の良い声がする。



「どうも、お久しぶりです。」



いつ来ても閑散として、儲けあるんかい!ってツッコミ入れたくなるような店だが、もしかしたら予約が入ると他の客は取らないかもしれないな。



私は、カウンター席の端にいる若い男に視線を移した。



「なんだ、先にビールでも飲んでくれて良かったのに。」



「独りでは、ちょっと…ね。」



ふわっとした笑顔を向けたのは、蒼だった。