「俺は足を伸ばしたいから、荷台に乗るよ。君は助手席に乗せてもらって」


と言って、史明は顔を痛みで歪めながら、なんとか堪えて荷台によじ登った。絵里花も史明に言われるがまま、軽トラの助手席へと乗り込む。

絵里花はシートベルトを着けると、名残りを惜しむように窓の外に広がるコスモス畑を見渡した。晶はエンジンをかけながら、そんな絵里花へ言葉をかける。


「ここも昔は田んぼだったんだけど、荒れ放題だったからコスモスを植えてみたんだ」

「そうなんですか。とっても綺麗ですね……」


絵里花は無意識に、コスモスよりも可憐で綺麗な笑顔で晶に応え、それからもう一度、山々とコスモスが織りなす景色を見渡した。


『……ここは、君の名前のような場所だな』


史明が言ってくれた言葉が、胸の奥に響き渡る。


ただ今は、この目に映っているこの景色を、忘れないでおこうと思った。今、自分の心が感じているすべてを、この胸に刻みつけておこうと思った。

たとえ愛しい人と離れ離れになっても、その人を愛したことが、自分の人生の中で輝き続ける想い出となってくれるように……。