「きっかけは、どんな形でも。今君は歴史の世界にいて、ちゃんと〝歴史的探究心〟を持って俺の研究を手伝ってくれている。今ここに君と俺が存在していることには、何かしら必ず要因があるからなんだ。君の元彼氏も、磐牟礼城を見つけ出せた重要なファクターなんだよ」
史明から語られた言葉が、絵里花の心にじんわりと沁みてくる。目的意識も持たず、成り行きで生きてきた自分の人生を、こうやって史明に肯定してもらえるなんて。
「……それじゃ、今ここに岩城さんと私がいることにも、意味があって、未来に繋がってるんですね?」
「この世に、意味のない現象なんてないよ。今、君が呼吸をしている一つひとつは、次の瞬間には過去になり、それが歴史の一部になっていくんだ」
それを聞いた時、絵里花の体に寒さとは違う鳥肌が立った。史明が歴史を愛する理由を、今初めて共有できたような気がした。
会話が途切れて、また沈黙が訪れる。だけど絵里花は、もうそれを〝気まずい〟とは思わなくなった。
「ああ、こうやっていると、さっきまでとは全然違う……」
史明が絵里花の温もりを確かめて、安堵のため息をつく。密着してしばらく経ち、洋服で隔てられていても、お互いの体温を肌で感じられるようになっていた。



