「そうだ。食べきれなかったお弁当の残り、食べましょう」


気を紛らわせるように、少し明るい声色で提案した。


「かたじけない……」


いつもは辛辣な史明の物言いが、変に殊勝になっていることに、絵里花は可笑しくなって思わずフフッと漏らしてしまった。


「……すみません。岩城さんが、まるで侍(さむらい)みたいな言い方をしたので」


すると、史明も同じように鼻で息を抜いた。


「いつも、侍が書いた文書ばかり読んでて、頭の中の世界は〝中世〟だからな」


それから絵里花がお弁当箱を並べると、二人は手元もよく見えない状態で、それを分け合って食べた。


「満腹になる必要はない。腐りにくいものは、残しておいた方がいい。……まさか、本当に〝遭難〟することになるとは思わなかったな」


史明がそう言ったことを、絵里花は黙って聞いて頷いた。絵里花だって、史明と二人なら『遭難してもいい…』なんて思ってみたりしたけれど、こうやって現実になってしまったら、自分がどれほどバカな考えをしていたのかが分かる。

覆いかぶさってくる不安をはらんだ暗闇に、絵里花は押しつぶされてしまいそうだった。