だけど、やっぱり勇気が出なかった。
史明は、絵里花のことを〝ただ職場で一緒に仕事をしている人間〟としか捉えてくれていない。そんな史明に、告白しても拒否されるのは目に見えている。

失恋したら、もうこうやって想い続けることさえもできなくなる。なによりも、一緒にいることが気まずくなる。
それならば、同じ空気を吸える残り少ない時間、現状(いま)のままの方がいい……。

だから、絵里花は必死で別の理由を探した。


「……それは、ただ単に、歴史的探究心です。今は何もないところにその昔はお城があって、それを探し出すなんて、ロマンを感じるじゃないですか」


絵里花はそう言い繕ってみたけれども、その思いが全くないわけでもなかった。

〝恋〟を介した想いは通じ合えなくても、〝歴史〟を介した思いならば、絵里花が歩み寄りさえすれば通じ合える。
そして、なによりも、そのロマンを感じる心は、誰でもない史明が育ててくれたものだった。