史明がこんな辛辣なことを言うのは、初めてではない。以前も、ラインストーンの煌めくネイルを施していて、

「そんな爪して、史料を破損させる気かっ!!」

と、怒鳴られた覚えがある。

歴史に全てを捧げ、真摯にそれを追い求めている史明にとって、何よりも大切なのはこの史料で、別に絵里花のことを嫌っているわけではない。

……と、絵里花は思いたい。



収蔵庫の中は日も射さず気温も一定で、なんの変化もない。時間の進み方も、外の世界から隔絶されてるように分からなくなる。

けれども、昼食を食べた後の昼下がり。刺激がなく、単調な作業を繰り返していると、猛烈な眠気が襲ってくる。

これには、さすがに史明も耐えられないようで、大きく伸びをしながら髪をかきあげ、眼鏡を外す……。

その時に垣間見られる、涼やかな瞳。信じられないほど端正な史明の目鼻立ち。

絵里花の胸がドキン!と、痛みを伴うように鼓動を打つ。思わず息を止めて、その目の前に現れた奇跡のような光景に見入ってしまう。