――藪の中……で、押し倒されたりしたらどうしよう……♡
すっかり舞い上がってしまってる絵里花の妄想は、果てしなく広がっていった。
絵里花は、自動車の免許を持っていない史明から、「車を出してほしい」と頼まれていた。
地図を見た感じで、山を歩くことを想定した絵里花は、バッチリ〝山ガール〟のファッションに身を包み、車に乗り込む。
〝デート〟の気構え充分に待ち合わせの職場へと向かうと、史料館の職員通用口の前に、怪しく野暮ったい男が立っていた。
ヨレヨレのシャツ、ダブダブのズボンに無精ヒゲ。それは、いつもと変わらない姿の史明だった。
「おはようございます」
「……おはよう」
車に乗り込んできた史明に、絵里花が声をかけると、史明はいつものように不愛想に返してくれる。それから絵里花が、
「いいお天気になって、よかっ……」
と言いかけたところで、それを遮るように史明が指示を出す。
「今日の計画は昨日言った通りだ。まず文書を寄贈してくれた古庄家へ向かう。着いたら起こしてくれ」
そして、そう言うなり史明は、シートの背もたれを倒して眠り始めた。
――は!?……ちょっと!!
絵里花は運転しながら、目を剥いて絶句した。



