その一角の照明に照らされた場所に、置かれた大きなテーブル。そこが絵里花の仕事場だ。
テーブルの側には、コンテナに入れられ積み重なる膨大な古文書たち。


「ハァーー……」


絵里花はひとつ大きな息をついた。
このコたちを毎日コツコツと解読して、表題を付け目録を作っていくのが、目下、絵里花に任されている仕事だった。


いくら絵里花が自分を磨いてお洒落をして、みんなが振り返ってくれるような完璧な美人になっても、ここでは誰も見てくれる人はいない。

ただ一人を除いては……。


「えらく大きなため息だな……」


その時、棚の間からフラリと人影が現れた。それと共に、そこはかとなく饐(す)えたような臭いが辺りに漂う。


「もう月曜の朝か?」


その男は、無精ヒゲの顔で眠たそうにあくびをしながら、絵里花にそう尋ねた。


「今日は火曜日です。この週末の三連休、またここに泊まり込んだんですか?」


絵里花は鼻で息ができないので、苦しそうに顔をしかめながら、逆に問いかけた。

この無精ヒゲの男、岩城史明は、この史料館の研究員の一人で、この地域の中世史を専門に研究をしている。