彼がメガネを外したら…。



それからいつもと変わらない日々が続いた。史明は収蔵庫の中に泊まり込む日もあり、絵里花が出勤したら寝袋で寝ていたこともあった。異動が迫っているにもかかわらず、史明の日常は全く変わらなかった。本や資料で埋め尽くされた史明のブースも手つかずのままで、異動の準備はしなくてもいいのか、絵里花の方が心配になってくる。


来月があと1週間へと迫った頃、『磐牟礼城』の記載のある古文書もまた出てきて、


「また、ありました」


と、あいかわらず収蔵庫にいる史明に知らせた。


「ああ…」


と、短い返事をして古文書を走り読みしている史明に、絵里花が確認する。


「岩城さんが東京へ行った後も、関連する文書が出てきたら、お知らせした方がいいですか?」


史明の体がピクリとこわばった。


「……いや、それは……」


古文書を見ながら呟いて、それから息を長く吐いて古文書をテーブルに置くと、顔を上げて絵里花を見つめた。史明に直視されることは本当に久しぶりなので、絵里花もドキリと固まってしまう。


「望月さん、実は……」


と史明が言いかけた時、突然、収蔵庫の扉が開いた。


「岩城くん!岩城くんはいるか?」


血相を変えて、館長が収蔵庫に飛び込んできた。


「はい。ここにいます」


史明が立ち上がって答えると、「ちょっと、来なさい」と館長は史明を収蔵庫の外へと連れ出した。