もちろん学会という場に来ているのだから、絵里花も無駄に着飾ったりしていない。それでも、寸分の隙も無いほどに磨かれた絵里花の容貌と立ち居振る舞いは、誰の目にも止まってしまうほど際立っていた。


「やあ、望月さんだったっけ?懇親会に来てくれたらいいなぁ…って、期待してたんだよ」


そこへ声をかけてきたのは、朝にも会った重石だった。

この人物は史明と同じで、やはりどこかの史料館の学芸員をしているらしいが、史明と同じ研究者とは思えないほど洒落ていた。ネクタイはもちろん、ポケットチーフにまでこだわっているのに、残念ながら見た目は全然イケていない。


「そんな小難しい話ばかりしている岩城と一緒にいても楽しくないだろう?」


そんなふうに話を振られても、絵里花は同調するわけにもいかず、困った笑顔で応えるしかない。
第一、『楽しい』とかそんな感覚以前に、絵里花は史明の側にいられるだけで幸せなのだから。


すると、側にいた史明が、重石との会話を聞きつけて、口添えしてくれる。


「小難しいって?!そんなはずはない。望月さんは、共同研究者みたいなものだよ。今回のこの文書を、最初に発見したのも望月さんなんだ」


『共同研究者』史明がそう言ってくれたことに、絵里花の胸がキュッと反応した。