すると、そこに現れたのは、先ほどまでの史明と同一人物とは思えない史明の姿。


「……素敵です」


絵里花はニッコリと笑って史明の横に立つと、鏡に映る史明の姿を覗き込みながら、そう言った。
そこに映る二人は、誰がどう見ても美男美女のお似合いの二人だった。


「いや、でも。メガネを外すと、近く以外何も見えなくなるから、困るじゃないか」


それでも、そう言って、史明が水を差す。
実際、それは本当らしく、史明は鏡に映る自分の麗しい姿も、ほとんど見えていないようだった。


「だから、いいんです。学会の参加者の顔なんて、ほとんど見えなくなるから、誰もいないのと同じようなものです」


これこそ、絵里花が考えていた秘策だった。それを聞いて、史明はさらに困惑する。


「でも、発表にはパワーポイントを使うんだ。スクリーンが見えないと、具合が悪いよ」


やっぱり、史明は不安を拭いきれないみたいだった。


「レーザーポインタで示すのは、私がやります。ずっと一緒にやっていたから、私だったら分かるし。……最後まで、お手伝いさせてください」


〝最後〟という言葉が、絵里花の胸にズキンと切なく響いた。それでも必死に自分を奮い起こして、史明を鼓舞した。

史明も、絵里花のその言葉に心が動かされたのだろうか……。まだその表情の曇りは晴れてはいなかったが、それ以上の不安は口にしなかった。