ほぼ絵里花の独断で選ばれたスーツは、とても洗練された一着だった。


「ご試着は、どうぞこちらへ」


店員から案内され、史明は言われるがまま、そのスーツに袖を通してみた。


……でも、史明の野暮ったさは、スーツのカッコよさを凌駕していて、そのスーツを全く着こなせていなかった。


「こんなスーツ、俺なんかに似合いっこないよ……」


ファッションセンスのない史明でも、鏡に映った自分を見て、さすがにこれはダメだと思ってしまう。そんな史明に、店員も好感を持ったコメントのしようがなく、うろたえている。


けれども、絵里花だけは自信に満ちた笑みを浮かべていた。
絵里花は思い切って史明に歩み寄ると、腕を伸ばして、史明のメガネをそっと取ってみる……。


「……あっ!」


それは、絵里花の行動に驚いた史明の声と、そこに現れた史明の端正な容貌に驚いた店員の声だった。


「こうやってメガネを外して、キチンとヒゲを剃って髪をセットすれば、大丈夫。ちゃんと似合いますよ」


絵里花が微笑みながらそう言うのを聞いて、機転を利かした店員も即座に動いた。


「それじゃ、髪をセットしてみましょう!」


と、バックヤードへ駆けていくとヘアワックスを持ってきて、史明のボサボサの髪を簡単にセットしてくれた。