「立ち仕事ばかりのこのバイト終わりにさ、自転車でこの坂下る時、1番好きな時間」


「分かるよ、座っただけでも気持ちいいのに、足を伸ばせる感じ、ね」



「下り坂だからね」


「夜風が涼しい」


「あぁ、あの赤信号渡った時に車に轢かれて死なないかなあ」


「死にたいね」





死にたい

至って健康な俺たちが、決して口にしてはいけない言葉なのだろうということは、心のどこかではわかっていて。

それでも、言うのを止めようとしないのは、死にたい願望を捨てきれないからで。






「でもどうせ死なないよ、私たち」


「知ってる」


「不老不死でもないくせに、私、死なないってわかる」



「うん」




「どうしてだろうね。こんなにも死にたいのに」



「うん、知ってる」





池杉はそう言って、俺を追い越した。
ペダルを漕ぐ回数が俺より多かった。

ギアは多分俺の方が重いんだ。