その後、佐伯は橋口さんとの事をちゃんと話してくれた。

私を『セザキ』の接待から外したのも、橋口さんに仕事でもプライベートでも構っていたのも、全て私をセクハラから守る為だったと。

そして、飲み会の後、橋口さんとホテルに行ったのは、彼女を誘ってきた『セザキ』の専務に、話しをつける為だった。

でもそれは、橋口さんが佐伯に関係を迫る為の嘘だったそうで、佐伯はそんな彼女の気持ちには応えられないとキッパリ断ったそうだ。

暫く泣かれて大変だったみたいだけど、何とか彼女を説得して、タクシーで自宅へと帰したということだった。

「会社でも俺と橋口って気まずい感じになってるだろ?」

佐伯の話によると、それ以来、橋口さんの方が佐伯を避けていたらしく、移動願いまで出しているそうだ。

そんな状況になっていたとはつゆ知らず、てっきり私は、付き合っていることを隠す為に、二人はわざと余所余所しくしているのだと思い込んでいた。

それを佐伯に伝えたら、こんな嫌みを言われてしまった。

『ホントおまえって、男女間のことには恐ろしいほど勘が利かないのな』

どうやら佐伯は、私たちがこんなにすれ違ってしまったのも、私が鈍いせいだと言いたいらしい。

それはちょっと心外だ。

「あのね、私も確かに鈍感なところはあるけど、佐伯だっていけないと思うよ? ちゃんと最初にエッチした時に言葉で気持ちを伝えてくれていれば、いくら私でも無かったことになんてしなかったし、もっと早く自分の気持ちにだって気づけたよ」

そうだ。
ここまで拗れてしまったのは佐伯にも責任があるのだ。

「好きだよ」の一言さえ言ってくれれば…なんて、少しプンプンしていると佐伯が表情を曇らせた。

「好きだよって言ったけど、俺」

佐伯がそう呟いた。

「え!?」

予想外の言葉だ。

「嘘…いつ言ったの?」

「抱いてる時だよ。おまえも頷いてたけど覚えてないの?」

「え! あ…言われてみれば、何か佐伯がごにょごにょ言ってた気もする。そっか、あの時か」

「おまえな。人の愛の告白をごにょごにょっとか言うなよ」

佐伯が私の顔を横目で睨んだ。

「あ、ごめんね。でも、あの時はとにかく胸がいっぱいで、何も頭に入ってこなかったんだよ」

「ふーん まあ、今のはちょっと可愛いかったから許すけど」

佐伯は私を引き寄せ、こめかみにチュッとキスをして言葉を続けた。

「でも、マジ傷ついたよな…。気持ち伝えて手に入ったと思った途端、無かったことにされて、他の男と目の前でイチャつかれてたんだからな~ どうやって償ってもらおうかな」

そう言って、チラリと私を見た。

「いやいや、ちょっと待って。それを言うなら、佐伯だって十分鼻の下伸びてましたけど。あれじゃ、橋口さんも勘違いしちゃうでしょ~」

「伸びてねーし」

「伸びてました~」

なんて、ふたりで言い合っていると、私のスマホが勢いよく鳴り出した。

「あ。実家からだ!」

マズい。
お見合いのこと、何て報告したらいいのだろう!?

慌てる私に佐伯が冷静に言った。

「とりあえず、これから俺が謝りに行くこと伝えてくれる?」

「う、うん、分かった。」

私は佐伯の言葉に頷いて、一度大きく深呼吸した。