走り始めた時には、もう夜の9時をまわってた。
隣に座る、彼。
カーナビに映る、ほんの一本入るだけでいい海沿いの道。
理性の、真っ直ぐ帰れと言う声はあまりにも小さい。
満月はまだ高く昇りきってはおらず、さあ、これからだと言わんばかり。
気がつけば私は、ハンドルを切っていた。
晴れの日に栄える青い車は、月光の下でもやっぱり栄えて、もはや何のためらいもなく海沿いの道を走り出す。

彼はこちらを向いて、
いいの?
と目をいたずらっぽく輝かせた。

幹線道路を一本外れた海沿いの道は通る車も少ない。海には船がでてるのか、ポツポツと明かりが見えるが、それも少なく明かりらしい明かりは旅真っ只中の満月だけ。
ちらっと窓の外を見て、
残念。星が見えたら良かったのに、

と、私は言った。
どこが、残念だ。
急に決まった夜のドライブに、もう十分なほど心ははずんでいる。
声は自然に高くなる。

隣に座る彼は、くいっとコーラを飲んだ。
私達は満月と共にただひたすら海沿いを走る。

海岸線を走っていると、道はだんだん細くなって、幹線道路に戻らざるを得なくなった。
しばらくして、コンビニを発見。物資調達のために入店。
眠気覚ましのコーヒー、チューイングガム、1リットルのお茶、ポテトチップス。

夜はきついから、交代にしよう、

と彼は言った。
一時間半ごとに。
アイスは次のコンビニで、もっとテンションがあがってから。

彼は私より手慣れた様子で車をスタートさせた。
順調に車は走る。夜は遅く、月はその旅の半ばかと言う頃になって、幹線道路といえど通る車は少なくなった。

真っ直ぐ帰るべきだった。でも、すぐに帰ってしまう気にはどうしてもなれなかった。

無理をしてでもいい。
夜通し走ったっていい。

一緒にいられる時間は限られている。