「じゃあ、麗美また明日っ」

「うん、また明日。バイバイ」



 もう五月の終わりに近付いてきた、そんなある日の放課後。


 日が経つに連れ、中庭で咲いていた桜や、教室の窓から見える桜が散っていき、すっかり葉桜に変わっていった。


 時折吹く風に木々を揺らしている音。グラウンドで砂の上を蹴って駆けていく音。笛の音。部活動であろう先生の声や生徒の掛け声が窓の外から入ってくる。


 それらの聞こえてくる音と教室の静けさと溶け合っていると共に、わたしは日誌を書いていた。


 萩原くんと二回目の日直。


 今日は調子がいい。思ったより早く終わりそう。



「今回は書くペース早いね」



 自分のやるべきことが終わったのか、萩原くんは裕子の席に跨がり、わたしが日誌を書き終わるのを待ってくれていた。



「…うん、今回はね」

「何か用事あって急いでる?」

「うん、兄ちゃんと買い物あるから。もう少しでお母さんの誕生日なんだ。わたし、お小遣いあんまりないから一緒に買うってことになって」

「…そうなんだ。…その兄ちゃんって、松田がこの間窓からキャーキャー騒いで見てた…あの人?」

「…そう。裕子がなんか、うちの兄ちゃんを狙ってるっぽくて…」



  ははっ、とわたしは苦笑する。でも萩原くんは、難しい顔をして顎に手を当てていた。視線を落としながら、じっと何か考え込んでいる。