「私服なら、とりあえずスニーカー買わなきゃ」

「…え、裕子スニーカー持ってないの?」

「持ってないよ。学校指定のやつしか」

「何で?」

「普段、スニーカーなんて履かないもん」

「…へえ。でも中学のときとか使わなかったの?」

「ボロボロだったから捨てちゃった。ボロボロになったら捨てる主義だから」



 なかなか裕子らしい理由ではある。



「…そうなんだ」



 裕子はプリントを半分に折って、それを鞄の中に仕舞い込む。鞄に視線を落としながら、裕子は言った。



「…あのさ、牧原」

「……何?」

「このあと、…付き合いなさいよ」



 …いきなりここで愛の告白…?

 ていうか裕子、そんなに牧原くんを睨まなくたっていいんじゃ…。



「あの、ゆう、」



 話し掛けようとしたとき、突然背後から口を塞がれた。


 咄嗟に後ろを振り返ると、萩原くんが何やらにやにや笑っていた。彼は人差し指を唇に当てている。わたしが小さく頷くと、口が萩原くんの手から解放された。


 しばらくの沈黙が続いたあと――。



「……あー、いいよ」



 えっ、えっ、えっ。

 えぇーーーー!



 心の中で、驚愕の声が上がる。


 わたしは、二人の顔を何度も見比べた。


 裕子は少しだけ顔を真っ赤にさせて俯いているし、牧原くんは裕子をじっと見つめている。



 この状況はもしや…ということはやっぱり、さっきのは、こ、告白だったの?

 え、みんなが居る前で…?



 嘘、そんな、まさか…とわたしの頭の中はそんな言葉で埋め尽くされていく。


 わたしは萩原くんの方に振り返った。


 見ると、彼は机の上に腕を置いて顔を伏せ、肩を小刻みに揺らせていた。よく観察してみると、声も出さずに笑っているみたいだった。



 …何で、笑ってるの?

 普通、…驚くでしょう?



 何がそんなに可笑しいのか、わたしにはちっともわからない。