「ねえ、どうする? 私服だって」



 裕子が一枚のプリントに目を落としながら、わたしに話し掛けた。



「うーん…わたしは動きやすい格好で行くよ。だって山登るんでしょ」

「動きやすい格好ねえ…。何で制服とジャージあるのに遠足は私服なんだろう。…面倒なんだけど」



 わたしの高校は一学年だけ、遠足という行事がある。


 先ほどの帰りのホームルームでは、プリントが配られ、遠足の説明が行われていた。


 プリントには日時と集合場所と内容の説明が記入されてあり、服装の部分には『私服』と書かれていた文字があった。



「制服だったら標的になることもあるだろうし、危ないからじゃないの」



 わたし達の会話を聞いていたのか、萩原くんが話に割り込んだ。



「ああ、なるほどね」



 裕子は何度か頷き、腕を組みながら感心している様子だった。



「萩原はどんな格好で行くの?」

「俺は…まあ、動きやすい格好で」

「二人して同じ答え出すし…」



 そこでなんとなく萩原くんを見ると、目が合ってしまった。恥ずかしくなったわたしは慌てて視線を逸らした。



「俺は、ジャージで行くよ」



 話の横から、牧原くんが割って入ってくる。



「あんたには訊いてない」



 そして相変わらず、裕子は牧原くんに冷たい。わたしへの接し方と、牧原くんへの接し方とは明らかに異なっており、大きな差が開いていた。



「あ、ちなみに学校のジャージじゃなくて、」

「だから、訊いてないってば」