全開に開け放たれた窓から、風が送り込まれる。その度に、窓に引かれた透き通った白いカーテンが、ゆらゆらと風に揺れ続けていた。


 その横で、わたしは静かに本のページを捲った。活字を上下に追って、どんどん読み進めてはまたページを捲っていく。


 そう、わたしは今、図書室で読書をしているところだ。


 あれからゴールデンウイークも明けて、普通の学校モードになっていた。


 わたしはあれから何度も、萩原くんを避け続けてきた。彼とは、「おはよう」という挨拶程度くらいしか交わせていない。目を合わせないように、なるべく関わらないように、意識しないように。最近はこういう風に、萩原くんを避けている。


 いっそのこと嫌いになれたらどんなに楽だろうか。


 何故、自分は萩原くんに興味を持ってしまったのだろうか。


 最近はそんなことばかり考えてしまう。


 わたしは本に集中しようと、その思考を強制的に追い払った。気を取り直して活字を追う。そのとき、図書室の引き戸が開いた。わたしは無意識に図書室の入り口に視線を巡らせる。


 入って来た彼女を見て、わたしは目を見開いた。



 ……朱菜ちゃん……。



 わたしが今、最も会いたくない人。


 わたしの存在に気付いた彼女は、人の顔を見るなり、無言で本棚の並びへと向かう。


 もう放課後なのに、萩原くんとは一緒に帰らないのだろうか?


 わたしはなるべく気にしないように、再び本の活字に視線を落とした。


 程なくして、読みたい本があったのか、朱菜ちゃんは本を片手に持ちながらこちらに近付いて来た。


 閲覧用の机は沢山空いているのに、何故か彼女はわたしの真向かいに腰を落とした。



 ――どうして、わざわざそこに座るのだろう?



 そのまま立ち上がるわけにもいかず、逃げたくても動けなかった。仕方なくわたしは、本を読むことに専念する。


 だが、全くと言っていいほど思うように内容が頭に入ってこない。本を握る手が自然と汗ばんでいた。


 わたしは、目だけをぎょろりと動かし、手に持っていた本を壁にして、朱菜ちゃんの顔を上からこっそり覗き込んだ。


 わたしが見る限り、彼女は至って冷静で、平淡とした顔で本を読んでいる。


 お互い何か言葉を交わすわけでもなく、ただただ時間は過ぎていった。