兄ちゃんに早く帰って来いと言われていたわたしは、あのあと、高校から最寄りのバス停へと向かった。


 停留所に着くと、帰宅途中なのか、自分と同じ制服を着た生徒達が長い行列を作ってバスを待っていた。わたしは最後尾を目指して歩き出す。


 最後尾に並ぶと、わたしの傍らでは女子校生達が姦しい声でお喋りを楽しんでいた。


 盛り上がるのは勝手だけれど、少し喧しすぎる。わたしは顔を顰めて、早くバスが来ないかと道路の遠く先を見つめた。


 時間通りだと、もうすぐバスが着く頃だ。


 携帯で時刻を確認し、もう一度道路の遠くに目を向けようとすると、聞き覚えのある男の人の声がわたしの名前を呼んだ。



「麗美ちゃん?」



 わたしは声がした方へ振り返る。思った通り、相手は優希さんだった。



「優希さん…」

「偶然だね。今帰りかい?」



 変わらず、爽やかな笑顔を浮かべる優希さんを見て、わたしもつい笑顔になる。嫌なことなんて何でも吹き飛ばすような、そんな笑みだった。



「はい、今帰るところで…。あの、兄ちゃんともう家で一緒に居るのかと…思ってました」

「ああ。…今日はちょっとね、用事があったんだ。そうだ、誠二から聞いたの? 誠二の家で宿題するって」

「はい。なので帰る前に買い出しに行こうと思ってました」

「そうなんだ。そしたら僕も行き先は同じだし、買い物一緒について行ってもいいかな?」

「え、いいんですか? …でも時間無くなりませんか?」

「全然大丈夫だよ」



 優希さんは頷いて、にこりと微笑む。



「じゃあ、一緒に行きましょ」



 わたしと優希さんは、一緒にスーパーへ向かうことになった。