しばらくそうして眺めていると、不意に萩原くんの姿が視界に入った。萩原くんの左隣には朱菜ちゃんが歩いている。その光景を見たとき、何かが胸にチクリと突き刺さって、痛みが走った。



 ――そっか。萩原くんは、朱菜ちゃんと付き合うってちゃんと自分の意思で決めたんだね…。



 これでわたしも一先ずは諦めがつくはずだ。何も起こらないで本当に良かった。この恋心はきっと一時的なものだ。確信めいたものでもないし、思い込みである可能性の方が高い。


 それに良かったではないか、と思う。元々わたしは、彼女の気持ちを考えて、その上で萩原くんを説得した。朱菜ちゃんの涙を見たときから、わたしは彼女の恋が叶って欲しいと思っていた。


 きっと、わたし自身の本来の意思はそこにある。だからこの感情は認められない。こうなった時点で、本物であるかどうかは区別する必要がない。



 そのときは本当にそう思っていた。だけど、最初からこの先もずっと――。


 わたしの気持ちが変わることはなかった。



 この日、わたしと萩原くんは挨拶を交わしただけで、朱菜ちゃんの話題については一切触れることなく、一日は終わった。