――なんだ、普通じゃん。



 牧原の態度は、普段と然程変わりない。



「牧原、遅いじゃん。今日」

「起きるの遅かったから」

「…そうなんだ。早く教室行きなよ。始まるよ? ホームルーム」



 牧原が昨夜どんな気持ちで過ごしたのか、少しだけ気になったけど、訊くのはやめておいた。



「おう」



 牧原は片手を上げ、再び歩き出す。あたしは通り過ぎていった牧原の後ろ姿を目で追った。



 なんだ。

 意外と普通に牧原と話せてるじゃん、あたし。

 …だけど、何だろう。

 何かが胸につっかえている。



 牧原が教室に入っていく。あたしは未だに、その場で立ち尽くしていた。



 ――ああ、そうか。多分これは、牧原と話しているときの微妙な温度差が原因だ。絶対そうだ。



 気付いたら、無意識にスカートの裾を握っていた。慌てて手を放したけれど、スカートにはくっきりと皺が残っている。



「……牧原の、バカ」



 牧原との距離が少しばかり遠くなった気がして、思わず泣きそうになった。