教室に入ってきた萩原は眠たそうな顔をして欠伸をひとつした。



「萩原くん、おはよう」

「おはよう」



 薄っすらと目尻に涙を滲ませながら自分の席に着き、いつものように麗美と挨拶を交わす萩原。あたしは漫画が入った紙袋を手にして、萩原の席に近付いた。



「おはよ、萩原」

「おはよう」

「はい、コレ。いつものやつ」



 漫画が入った紙袋を、そのまま萩原の机の上に置く。これで萩原に渡さなければならない漫画は残り五冊となる。



「ああ」

「眠そうだね、あんた。いつも何してんの?」

「…朝、弱いんだって」



 萩原は微笑を浮かべ、目を擦った。



「ふーん」



 なんとなく牧原の席に首を巡らせると、まだ牧原は来ていないようだった。


 昨日の件もあるし、顔を合わせれば確実に気まずくなるのが目に見えている。きっと麗美と萩原は、そんなあたし達を見て変に思うだろう。二人に勘付かれては大変だ。だから、普通に牧原と接しようとあたしは昨日の夜から心に決めていた。


 今日の朝は別々だったとはいえ、流石に来てもいい頃なのに、牧原はなかなか来ない。もうすぐ朝のホームルームが始まる時間だったので、あたしはトイレに寄っておこうと廊下に出た。


 廊下に出ると、大分離れた距離に廊下を歩く牧原の姿が視界に入った。牧原の姿を見た瞬間、緊張からか自分の歩く速度が自然に落ちていく。普通の速度で歩く牧原との距離は、呆気なく縮まっていった。


 距離を詰めていくと、牧原は俯いていた顔を上げ、漸くあたしに気が付いた。



「おはよ、牧原」

「…おはよう」