もう歩いてから随分時間が経っている。


 それなのに疲れないのかな、牧原。



「牧原。あたし重いし、疲れたでしょ? 降ろしてもいいよ、もう」



 前を向いているから牧原の表情が見えない。



「いや、大丈夫。俺、力あるから。それにお前よりは、体力何倍もあるし」

「悪かったわね、体力なくて」

「…おい、また俺の首絞めるなよ」

「あ。ごめん」



 そう言えば、こんな風に家族以外の人に背負われるの初めてだなあ、あたし。


 背負ってる相手が牧原だというのに、どうしてこんなにもドキドキするんだろう。


 変に緊張しすぎて、…おかしくなりそう。



「ねえ牧原。…あたし達ってさ、喧嘩してなかったっけ?」

「うん、してた」

「なんか…萩原のおかげかもね。うちら、もう普通になってるじゃん」

「…だな」



 牧原の乾いた笑い声。


 普通になってる。


 少なくとも今だけは。



「でもさ、あたし達って前、こんなんだったっけ…」

「……」



 あ、言わなきゃよかった、…かな。



 牧原はそれきり口を閉ざしてしまった。


 なんとなく重い雰囲気を感じ取って、気まずくなったあたしは、話し掛けるタイミングを完全に失ってしまった。


 相変わらず景色は変わることなく、長い川沿いをなぞりながら辿って行く。


 しばらく歩き続けていると牧原は黙って石段を上がり、道路に出てゆっくりとひたすら学校までの道のりを進んで行った。