「はい。漫画」

「おう。…あと残り十冊だな」

「うん」

「…何かあった?」

「…別に?」

「…そ」



 翌朝の教室で、あたしは牧原に借りていた漫画を五冊、萩原に渡していた。意味深な質問に内心首を傾げながら、あたしはすぐに自分の席へ引き返す。


 今朝、牧原とは登校も別々で、顔も合わせてないし、おはようの挨拶も交わしていない。


 それに、向こうから話し掛けてくる様子もないし、あたしはちょっと心のどこかでいじけていたり。


 あたしはただ、意地を張っているだけなのかも知れない。


 少し前のあたし達なら、本当はこんなつまらないことで気を遣う仲ではなかった気がする。



「裏技あるんだよ。こっち」

「え、じゃあアイテムは?」



 後方から、いつの間にか萩原と牧原が仲良くゲームのお喋りをしているのが耳に伝わってきた。


 牧原の声を近くで聞くと妙に気まずい。



「裕子」



 後ろから麗美に声を掛けられ、あたしは体ごと動かし振り向いた。



「なあに?」



 不意に牧原の立ち姿があたしの視界に入った。


 牧原は萩原の机に手で寄り掛かりながら、萩原と何かのゲームの話で盛り上がっている。



「…昨日は、どうだった? 兄ちゃんに訊いたんだけど何にも教えてくれなくて…」



 麗美の後ろには当然ながら牧原の姿が嫌でも目に入ってしまうわけで。


 あたしは視線を麗美に全集中させ耳を傾けた。


 麗美が、…土曜のことを訊いてこないのはきっとわざと。


 朝から気を遣っているのか、土曜、あたしが勝手に帰ってしまった理由も訊いてこなければ、麗美は牧原の話でさえまだ一言も発していない。